祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 そして、肝心の少女は、絨毯にそのまま腰を落として、足を広げ、視線は本に釘づけだった。まったくこちらを見向きもしない。いくつかの本が適当に散らばっていた。

「メラニー、ご挨拶しなさい」

 優しく声をかけるも少女は反応しない。まるで見えない壁が、こちらとを隔てているかのように、メラニーはぴくりとも動かなかった。

 視線と共にこげ茶色の髪も顔を隠すように、はらはらと落ちて、表情もまったく分からない。

「メラニー、お前のためにわざわざ来てくださったんだ。そんな本を読むのはやめて、ちゃんと話をするんだ!」

 さすがに痺れを切らしたのか、客人の手前というのもあるのか、オスカーがいつになく強い声を張り上げる。その瞬間、なにか黒い影が部屋を横切った、ようにリラには思えた。しかし速すぎて、なにかまでは認識できなかった。

 部屋中に視線を巡らせたが、もうなにも見えない。一体、なんだったのか。リラは再び、目の前のメラニーに視線を戻す。

「初めまして、メラニー」
 
 一応、挨拶してみるものの反応はない。もしかして耳が不自由なのか、そう思わせてしまうほどだった。さらにもう一歩リラがメラニーに近寄ったそのとき

「大変だ、食堂が!!」

 ものすごい剣幕で部屋に飛び込んできたのはブルーノだった。息が切れ切れなのは、急いできたからか、それとも、それほどの出来事があったからなのか。

 とにかく来てくれ、と促され、やはりこちらを見向きもしないメラニーを尻目に、リラたちは食堂に向かうことになった。
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