祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「あの『ジャマヲスルナ』っていうのはなんのことでしょうね」

 エルマーが先ほどのクロスに書かれていた言葉を振り返る。それに対しブルーノが真面目半分、冗談半分といった調子で返した。

「そりゃ、あれだろ。悪魔が自分の邪魔をするなってことだろ」

「だとしたら、その内容は? 余計なことをするな、と言うつもりなのか。我々の存在自体が邪魔なのか」

「存在が邪魔って。奴らには言われたくないよな」

 おどけた調子を崩さないブルーノの言い草は、どこか暗くなりそうな雰囲気を払いのけてくれる。そして、静かにリラが意を決して申し出た。

「もう一度、メラニーと会ってみたいんです」

 食堂に顔を出すと、片づけば粗方済んでいた。オスカーに断りを入れてから再度、メラニーの部屋に向かう旨を告げる。

 場所はもう分かっているので付き添いは断った。その代わり、今回はヴィルヘルムも同行することになり、リラはなんだか落ち着かない。

 薄暗い廊下を突き進み、メラニーの部屋に再びたどり着く。ドアをノックするが、中から返事はもちろんなく、待っていても埒が明かないのも分かっているので、リラはオスカーに倣ってドアを強引に開けた。

「こんにちは、メラニー」

 努めて明るく声をかけたが、メラニーはこちらを見向きもしない。そして食堂ではあんなことがあり、バタバタとここから去っていった大人たちの様子を気にする素振りもまったく見せず、黙々と本を読んでいる。

 両足を投げ出して、覗き込むように本を見ている姿は年相応で微笑ましくもあるが、読んでいる本は、辞書のように分厚く、黒い皮の表紙に黄ばんだ頁、棚から取り出すのも苦労しそうな代物なので、その不釣り合いさが却って不気味だった。反応がなくてもめげずに、リラは腰を落として、メラニーに近寄る。
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