祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「それって、お父さんの本だよね。面白い?」

 ヴィルヘルムはそんなリラの行動とは対照的に、部屋に入ったものの、メラニーには目もくれず、びっしりと並んでいる本を眺めていた。

 リラは、言葉は返してもらえずとも、なにか反応でもしてもらえば、と話題を変えてあれこれ話しかけてみる。

「オスカーさんとカミラさんはメラニーと話したがってたわ」

 そのとき、リラはふと視線を部屋の奥に向けてみた。本棚で全部覆われているのかと思えば、そうではなく、部屋の右奥に微妙なスペースが空いていることに気づいた。

 そこには、鮮やかな緑をベースとした花と蝶が描かれている絵が、柔らかい布のようなものに描かれ、掛かっている。それは相当な大きさで、まるでむきだしの壁を隠すかのようだった。

 ぱっとドアから見ただけではこの存在に気づけなかったが、この部屋の雰囲気にはまったく合わない代物なので、それはそれでいいのかもしれない。

 妙なアンバランスさに違和感を覚えながらも、単に前から本棚を詰めていき、空いたスペースを使っただけなのかもしれないとリラは勝手に納得した。

「メラニー、この絵は?」

 せっかくだから、この絵について訊いてみようと話題を振った、そのときだった。今まで、聞こえていないどころか、そこに存在さえしていないかのように無反応だったメラニーが顔を上げた。

 その顔が子どものものとは思えないほど険しく、目は大きく見開かれている。リラは一瞬、怯んだが栗色の瞳にリラは映り込んでいない。

「ダメ!」

 溜めに溜めていた声が一気に溢れているのかと思うほど、メラニーの声は大きかった。動きは俊敏でメラニーは本棚の近くに佇むヴィルヘルムの元へ駆ける。リラは事態の急展開さに止めることもできなかった。
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