祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 まるで母猫が子猫でも守るかのように、メラニーはヴィルヘルムと本棚の間に入り、両手を広げて精一杯威嚇した。なにも言葉は言わないが渾身の力を込めてヴィルヘルムを睨みつける。

「どうした? ただ見ていただけだろ」

 子ども相手にも容赦なく、ヴィルヘルムは冷たい眼差しを向ける。それでもメラニーは一歩も引かない。そしてヴィルヘルムは本棚に視線を戻した。

「お前の父親が集めたそうだな。また随分といい趣味だ」

 その言葉にわずかにメラニーの瞳が揺れたが、すぐに眉をつり上げ直す。

「ここにはなにがいる?」

 ヴィルヘルムの問いかけはリラではなく、メラニーに対してだった。今まで誰にも反応を示してこなかったのに、メラニーはかすかに王の言葉に揺さぶられる。

「お前は分かっているんだろ。先ほど、食堂を荒らしたのもそいつか。お前が命令したのか?」

 訊いているだけなのに、王の質問は棘のような鋭さを伴い、メラニーの心をえぐる。強気な表情は打って変わり、メラニーは広げていた腕を自分の肩に回し抱きしめるように身を縮めた。

 そして静かに首を横に振る。なにかを振り払うように必死だった。しかしヴィルヘルムは追及の手を緩めない。

「口があるんだからきちんと話してみろ。なにが狙いだ? 殻に篭っていれば、どうにかなると思っているのか?」

「陛下!」

 リラの声がふたりの間を裂く。その瞬間、窓にはめ込まれていたガラスが派手な音を立てて、砕けた。リラの目には黒い獣のような毛深い手が映る。

 それが勢いよく窓を押すと、破片は部屋の外に勢いよく飛び散った。部屋に冷たい風が吹き抜ける。急いで視線をメラニーに戻すと、メラニーは両手で口を押えて、蹲っていた。
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