祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「ヴィル、ご無事ですか!?」

 飛び込んできたのは部屋の外で待機していたクルト、そして

「メラニー!」

 あれだけ派手な音は食堂にも届いたのだろう。血相を変えてオスカーが入ってきた。蹲ったままのメラニーをオスカーが抱きしめる。リラが突然、窓が割れたことを説明すると、オスカーはうわ言のように漏らした。

「メラニー、僕たちはどうすればいいんだ。どうすれば君は、あの本を読むのをやめるんだ。どうすれば……」

 ぶつぶつと呟き、ゆっくりと立ち上がる。

「メラニー、とりあえずあっちに行こう。しばらくこの部屋は使えない。こんな吹き抜けだと風邪をひくよ、いいね」

 穏やかな口調でメラニーに言い聞かせる。その顔は笑みが浮かんでいた。しかし、メラニーはなにも言わず俯いたままだ。そして眉をしかめて、ちらりと後ろの本棚に目を向ける。それを見て悟ったリラが口を開く。

「本には、本棚には触らないわ。約束する。もちろん彼にも約束させるから、大丈夫よ」

 メラニーはちらり、とリラを見て、次にヴィルヘルムに目線を移した。

「分かった、触りはしない」

 リラの言葉とメラニーの視線に押され、小さくため息交じりにヴィルヘルムは呟いた。そのあとで部屋に飛び込んできていた側近に声をかける。

「クルト、彼らについてやってくれ」

「しかし」

「代わりにエルマーをこちらに」

 反論する間も与えず、代替案を提示して納得させる。クルトは渋々頷き、オスカーとメラニーに付き添った。部屋にはリラとヴィルヘルムだけが残り、遠慮なく二人の間に冷たい風が吹き荒れる。
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