祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「なぜ、止めた?」

 身震いしたのはこの風のせいではない。冷ややかなヴィルヘルムの声がリラに届く。

「差し出がましいことをしました、申し訳ありません」

「私は理由を訊いているんだ」

 リラの謝罪をはねのけ、王は距離を縮めた。

「彼女はまだ子どもです、あんなふうに問い詰めても」

「子どもだから、なんだ?」

 リラの理由は心底気に入らなかったらしい。一段と低い声で返し、ヴィルヘルムは嗤いながら、また一歩リラに近づく。リラは蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。

「子どもだから、甘やかされて、許されて当然だとも?」

「っ、そうです!」

 きっぱりと弾く声が部屋に響く。震えを伴っていたが、その声は力強く、ヴィルヘルムの虚を衝くには十分だった。勢いに乗って、リラは早口でまくし立てる。

「子どもは大人に見守られながら、たくさん失敗して、甘えて、許されて。そうやって成長していくんです! でも、今のあの子にはそれがない。あんなに苦しんでいるのに」

 言い切ったのと同時に目線を下に落として奥歯をぐっと噛みしめる。そうすると、心臓がばくばくと音を立てている現状だけが残った。後先考えず、感情的な物言いをしてしまった後に、次にどうするべきなのか頭が回らない。

 そうこうしていると、視界にはヴィルヘルムの足元が映り、距離を縮められていたことに、緊張が増す。風が外の木々を揺らし、なにかが倒れ、転がる音が遠くの方で聞こえる。沈黙。リラの心臓は壊れそうに強く打ちつけていた。
< 118 / 239 >

この作品をシェア

pagetop