祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 王は女性ではなく男性が好きなのではないか、自分と釣り合うほどの美しい相手ではないと許せないのではないか、ものすごくサディストで普通の娘では耐えられないのではないか。様々な憶測が憶測を呼び、それはどうやら他国まで尾ひれをつけて伝わっているらしい。

 それが今回の件を物語っていた。どのような噂を信じたのかは知らないが、とんでもないものを押しつけられたものである。

「慰みものにするつもりはない。ただ、あの紫が気に入っただけだ」

 リラの紫の瞳を初めて見たときのことを思い出す。珍しさか、初めて見るからか、それともそんな力でもあるのか。なぜか心臓が大きく跳ね、目にあの色が焼きついた。

 王の言葉にクルトとエルマーは視線を交わらせる。

「珍しい、というよりなかなか見ない色でしたね。魔女と言われていましたが」

「随分と手酷い扱いを受けていたようだ。全身に痣があった。恐らくサバトに行ったかどうか確かめるため、烙印を探されたのだろう」

 その発言にクルトは顔をしかめた。エルマーも眉を寄せている。先に口を開いたのはエルマーだ。

「魔女と疑われていたようですが、真偽はいかがでしょうか」

「本人は否定している」

 その言葉にクルトが噛みついた。

「信用に値するかどうかは計りかねます。奴らは忠実と思われる魔女にはけっして烙印を捺(お)しません。彼女が魔女でなくとも、間者という可能性も……」

「無論、信用しているわけではない」

 クルトの忠言をヴィルヘルムは遮った。そして軽く肩をすくめる。

「それは徐々に探っていこう。とりあえず彼女はもう少しそばにおいておく。確かめたいこともあるしな。それに、魔女なら魔女で大歓迎だ。私にとっては、な」

 エルマーは苦笑を浮かべ、クルトはまだなにか言いたそうな顔で王を見つめた。
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