祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

隠すものと隠されていたもの

「やはり、なにかいるようですね。ですが正体が分からないことには……」

 腕を組んで唸るエルマーに対し、同じように考え込んでいたヴィルヘルムが迷いながらも口を開いた。

「およその見当はついた。あとは確証が欲しい」

 その言葉にエルマーとリラは驚いたように顔を見合わせた。訊いたのはエルマーだ。

「我々はなにをすれば?」

「ここで探し物をしてもらいたい。本棚には触れるな」

「分かりました。それで、なにを探しましょうか?」

 ヴィルヘルムは口角を上げた。美しくも妖艶で、人々を惑わしそうな笑みだった。

「餌付けするための“餌”だ」


 エルマーとリラは手分けして、部屋のあちこちを探っていく。チェストの中、書斎机の中、棚の隙間。しかし、特に変わったものは見つからない。そうなると自分たちのしていることがどうも後ろめたくなってくる。

「致し方ないこととはいえ、少女の秘密を暴くのは、なかなか心が痛みますね」

「そうですね。あの……ヴィル。本当に、本棚はかまわないんですか?」

 極力さらりと名前を呼んだつもりだったが、どうしても違和感は隠せなかった。ヴィルヘルムは隔てるものがなくなった窓からなにかを確認するかのように顔を出し、リラの声を受けて再びその身を戻した。

「かまわない。どうせ本棚には本しかない」

 確信をもってそう言うと、ヴィルヘルムは壁に沿って睨(ね)めつけるように鋭い視線をぶつけながら、歩き始める。そしてしばらく進み部屋の角にあたったところ、あの絵が掛かっているところで、コンコンと壁を軽く叩いた。
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