祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「エルマー!」

 すぐにエルマーはそばに駆け寄り、同じように壁を叩いて確認する。そしてその場にしゃがみ込むと、壁を覆っている絵の下で、中途半端に覗いている床と壁との間に線が走っているのを確認した。

 その線をたどるようにして、遠慮がちに絵を浮かせる。布のような生地はあっさりと翻えった。

「これはっ」

 リラも息を呑んだ。扉と呼ぶほど仰々しいものでもない。そこには壁を切り取ったかのような正方形が顔を覗かせる。

 気持ちばかりとついている取っ手から、開くのは間違いそうにない。エルマーはちらりとヴィルヘルムを窺った。しかしヴィルヘルムは動揺などまったく見せずに

「どうやら探し物はここにあるみたいだな」

「つまりは、開けろってことですね」

 王の言いたいことを汲み、遠慮がちにエルマーは扉に手をかける。しかしその扉は驚くほど簡単に開いた。そこには小さな部屋がひとつ。

 部屋と呼ぶより貯蔵庫とでも言うべきか。窓がないので薄暗く、空気も冷たく淀んでいる。真ん中にスペースがとられ、小さな古い木机と椅子、棚。ぱっと見て確認できたのはそれだけだ。

 それを見たエルマーは、少し待っていてください、と言い残し部屋から出ていく。しばらくしてから、その手に持ち運び用の燭台を持って帰ってきた。

 短いが、太さがある蝋燭の火は大きな炎が煌々と灯っている。機転がきくエルマーにリラは、ただ感心するばかりだった。

 再び小部屋に足を踏み入れる。エルマーのおかげで、部屋の輪郭は、先ほどよりもより一層、はっきりとした。
< 123 / 239 >

この作品をシェア

pagetop