祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「ここは、ゴットロープが使っていたんでしょうか」

 問いかけか、独り言か、エルマーの硬い声が響く。蝋燭の明かりのみに照らされる閉ざされた空間、そこは石畳がむきだしで、中央にはチョークで書かれた魔法陣、散らばっている本。なにをするための部屋なのかは嫌でも分かる。そして

「この瓶は、なんでしょうか?」

 明かりの照らす範囲に目を追わせて、リラが気になったのは、棚に置いてあるものだった。本が置いてあるのかと思えば、そうではない。

 よく見えないが、緑がかったくすんだ色のガラス瓶が並んでいる。エルマーが近づき、そばを照らすと、瓶の中身が映し出された。

「きゃっ」

 ついリラが身を引く。瓶の中にはいくつもの黒い点が、目が見えたからだ。しかし、エルマーもヴィルヘルムもさして気にしていない。エルマーに至っては、その瓶を手に取った。

「そんなに驚かなくても。魚の塩漬けですよ。こちらは開いたものですが、これはまんまなので、少し気味が悪いかもしれませんが」

「それ、食べられるんですか!?」

 信じられない、という面持ちでリラは尋ねる。リラが育った村は、山奥にあり、そこまで他の地域との交流もなかったので、海のものを食べるどころか、見たこともほとんどなかった。エルマーは苦笑する。

「もちろん、美味しいですよ。それにしても、どうしてこんなにも魚の塩漬けが。保存食でしょうか」

 燭台を持つ手を棚に沿って滑らせると、照らし出される瓶の中身は魚ばかりだった。
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