祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「なるほど、餌は魚か」

 ヴィルヘルムはそれだけ告げると、早々に部屋を出ようとするので、リラとエルマーも慌てて続こうとした。そのとき、体を縮めて出ようとしたところで、なにかに足が当たったのが音と感触で分かる。

 じゃらりという零れ落ちる音と共に確認すると、革製の袋の中から大量のきらきらと光るものが覗いていた。

 一瞬、目を疑ったが、エルマーがそのうちのひとつを取り、扉の外で改めて日の光に当てる。それは紛れもなく本物の金貨だった。

「……これはどういうことですか? あなたには、分かっているんでしょう?」

 呆れたような視線を送ると、ヴィルヘルムは微かに笑った。リラは驚いてヴィルヘルムを見つめる。その眼差しにはヴィルヘルムはいささか困った表情を見せた。

「メラニーになにかが憑いている気配はない。しかし、ここになにかがいるのは間違いない。そして、それをリラは捉えることができない」

「はい」

 状況を説明しているだけなのに、なんだか役に立てていない後ろめたさを感じながら、リラは静かに頷いた。その微妙な表情を読み取ったらしい。ヴィルヘルムはリラのそばまで寄ると、そっと頭を撫でてやる。

「べつに責めてはいない。むしろ、それがヒントだった。お前は、強い意志をもってこちらに働きかけるものしか見ることができない、と言ってただろ。だから、ここにいるのは、特段自分の意志を持って、こちらに干渉しようとはしていないんだ」

「食堂やこの部屋の窓の件は?」

 エルマーが口を挟む。ヴィルヘルムがリラに触れていることに関しては、もはや無視を決め込んでいるのか、気にもしていないのか。
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