祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 ついにユアンに至っては顔を真っ青にして、その場で卒倒した。オスカーはメラニーを抱きしめ、歯の根が合わず、ガタガタと震えている。

「こ、これがメラニーに憑いていた……」

「ドゥム!」

 オスカーの腕の中からメラニーの明るい声が響いた。久々に聞いたメラニーの声にオスカーは、つい腕を緩めてまじまじと確認するかのように見つめる。メラニーは笑顔だった。

『メラニー』

 わずかに反応を示した魔神に、ヴィルヘルムはようやく面々の方に顔を向けた。

「彼の名は、ドゥムハイト。どういう経緯か、ゴットロープが呼び出した、守護魔神と呼ばれるものだ。害はない」

「嘘だ!」

 オスカーは拒絶するかのように叫んだ。メラニーを再び腕に抱きしめなおす。

「そ、そんな奴が、この家にいたなんて。お願いです、祓ってください。こいつのせいでメラニーは喋らなくなって、ずっと部屋にも引きこもりがちに」

「違う! ドゥムは悪くない!」

 それに反論したのはメラニー自身だった。緊張と怒りで顔を赤くし、ふるふると震えている。とっさに言葉が続かなかったが、泣きそうになりながら、必死で言葉を続けた。

「パパがいなくなって、励ましてくれたのはドゥムだったの。最初は怖かったけど、ドゥムは優しくパパの話をしてくれて、私の話も聞いてくれた。嬉しかった。でも、おじさんたちは、私の話なんて信じてくれなかった。パパを悪く言って、私も頭がおかしいんだって。残してくれた本も捨てようとして、だから、私。私……」

 そこでメラニーの声は嗚咽に変わっていった。その続きをフォローするかのように、リラが言葉を継ぐ。
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