祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「オスカーさん。ゴットロープさんは、奥さんを亡くしてから、自分もあまり長くないことを悟っていたみたいなんです。残していくメラニーを案じて、彼を呼び出したようですが。メラニーはずっと、信じてもらいたくて、言葉ではうまく説明できないから、彼をあなたたちに見せられるようにってずっと、お父さんの残してくれていた本を読んで、その方法を探していたみたいなんです」

「そん、な」

 オスカーは、焦点の定まらない瞳で、耳に入ってくる言葉を聞いていた。しかし、脳の処理が追いつかず、事実を受け入れられない。

「ゴットは馬鹿だ。なぜ、悪魔に頼る? なぜ、僕たちを頼らなかった? そんな信用もなかったのか? それが本当なら……メラニーを悪魔憑きにしたのも、言葉を奪ったのも僕たちのせいじゃないか」

 責めるような口調。その独り言は自分に向けられているのか、亡くなった友人に向けてのことなのかは定かではない。

「にしても、なんでメラニーにはこいつが見えてたんだ?」

 極力、目の前の魔神に視線は向けずに、ブルーノがヴィルヘルムに尋ねた。ヴィルヘルムはドゥムハイトから目を離さない。

「見えるから、ゴットロープはこいつを呼び出したんだろう。メラニーには元々見る力が備わっていたらしい。そういうのは奴らにつけこまれやすいからな」

「メラニーを守るため、っていうわけか」

 そこでようやくヴィルヘルムはオスカーとメラニーに目を向けた。

「話した通り、こいつはゴットロープに呼び出され、律儀にメラニーを守護している。祓うこともできるが、そうなると違う奴らに今度はメラニーが狙われるかもしれない」

 オスカーは肩を落として項垂れた。自分の置かれている状況も、迫られている決断さえ、どこか現実味がなくて、答えなど出せるはずもない。
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