祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 リラは最初に案内された二階の奥の部屋に戻った。城の自分に与えられた部屋よりも狭くはあるが、調度品などは立派なものばかりだ。

 壁にかかっている獣の毛皮が少し気になるが、これは方伯の趣味なのか。しかし眠ってしまえば同じだ。すべての部屋になのか、リラに宛がわれたからなのかは分からないが、わざわざ花まで飾ってくれている。

 そっと活けられた花に近づき、リラは匂いを嗅いだ。甘くて人々を魅了する香り、その見た目も十分に目を引く薔薇の花だった。

 紫に近い赤色が何輪も誇らしげに咲き誇っている。リラの住む村には、多くの植物が生息していたが、その中でもリラはとくに薔薇がお気に入りだった。

 明確な理由はないが、薔薇を見ていると、とても懐かしい気持ちになる。きっと子どもの頃から家に当たり前のように飾られていたからかもしれない。母か、祖母かが好きだったのだろう。

 薔薇をしばし堪能した後、赤いリネンが使われている寝台にそっと腰を落とす。そして、ずっとつけたままだったヴェールをゆっくりと払い、フィーネが丁寧に編んでくれていた髪を解いた。

 軽く頭を振ると、銀の髪が舞い、静かに重力に従って流れ落ちる。癖ひとつつかない絹のような髪を手櫛で整え、リラはそのまま後ろへ身を投げた。すると、それを待っていたかのように瞼が勝手に降りてくる。

 ふと意識が覚醒したとき、次に覚えたのは喉の渇きだった。そのままの体勢で、まどろんでいたらしい。どれぐらいの時間がたったのかは分からない。けれど確実に意識は手放していたようだ。

 喉を手で軽く押える。やはり塩漬けは、からかったからか、食べたときにはそこまででもなかったのに、水で喉を潤したくなる。迷いながらもリラは、食堂に行って水をもらうことにした。
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