祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「あんま、こんなこと言いたくないけど、次期ヴェステン家の当主として言うぞ。お前は国王なんだ。自分の立場、分かっているだろ?」

 真剣みを帯びたブルーノの声はリラにも刺さった。ヴィルヘルムの立場を考えれば、自分の存在は邪魔なだけだ。彼は結婚を、世継ぎを望まれている。

「珍しくどうした?」

 ヴィルヘルムの問いかけにブルーノは迷う仕草を見せた、ややあって、重い口をゆっくりと開く。

「……なにげなく親父にリラのことを話したんだ。そうしたら、すごい形相で銀髪なのか!?って何度も詰め寄られて。それから銀髪だけは駄目だ、その色は不吉で呪われている、けっして王に近づけるんじゃないって言うんだよ。俺もお前が本気じゃないことを話したけど、尋常じゃない感じだった」

 リラは自分の長い髪に目をやった。この髪が、この髪の色が、なんなのか。たしかに珍しいものだとは自覚している。けれど、そこまで言われるほどのなにかが、この髪の色にはあるのか。

 そしてリラの思考は自分の髪から、まだなにも反応を示していないヴィルヘルムに向けられる。彼はなんと答えるんだろうか。聞きたいような、聞きたくないような。

 足が動かないなら、耳を塞いでしまいたい。なぜなら、王の口から出る答えを、王としての答えをリラはどこかで分かっていた。しばしの沈黙が部屋を、館を包む。

「心配しなくても、そんな馬鹿な真似はしない。自分の立場も理解している。それに、どうせ別れる存在だ」

 耳鳴りと共に聞こえてきた王の声は、どこまでも感情が読めなかった。けれども、言われた言葉の意味は痛いほどよく分かる。リラはふらつきそうになりながらも、足音をさらに気をつけて自分の部屋に急いだ。
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