祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「なにも口にしないと聞いた。死にたいのか?」

 ベッドサイドに用意されたパンとスープに口をつけた様子はまるでなく、冷たくなっているだけだった。水差しとグラスも使われた形跡はない。

 リラは王の言葉になにも答えず、俯いたままだった。

 リラはシュヴァルツ王国の南国境となるゲビルゲ山脈の中の小さな村で祖母と二人暮らしていた。両親は幼いころに亡くし、あまり記憶はないが、この瞳の色はリラの曾祖母から受け継いだと聞いている。

 場所が場所なだけに閉鎖的な村だった、だからといって、それを嫌だと思ったことはない、リラにとっては村がすべての世界であり生きる場所だった。自給自足しながら、皆慎ましく生活する日々。

 しかし、リラが普段、あまり立ち入ることのない森の奥まで薬草を採りに行ったことから運命の歯車が狂い始めた。村は様々な植物に恵まれ、薬草の宝庫だった。

 それを、たまにやってくる商人たちに売り、収益を得たりする。滅多に外部の者が訪れることはないが、貴重な薬草を狙い、やってくる者たちもいた。

 いつもより遠くに来たと自覚はしていたが、帰り道は体が覚えている。なにより、たった一人の家族だった祖母を亡くし、どこか躍起になっていたのもある。

 布を頭から被り、薬草を探すのに必死だった。おかげで近くにいる人の気配にはまったく気づかなかったのだ。

 昼だというのに覆い茂った木々が夜を思わせる暗さをもたらす。不気味な鳥の鳴き声が聞こえていた。今思えば、あれはなにかを予兆していたのかもしれない。
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