祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 ベッドに体を横たわらせ、足を折り曲げて体を縮める。体は疲れているのに、リラはなかなか寝つけることができなかった。少し眠ってしまったからか、いや、それだけが原因ではないのは明らかだ。

 何度も何度もヴィルヘルムに言われた言葉を頭の中で繰り返す。そのたびに、目の奥がじんわりと熱くなり、心がズキズキと痛みだす。この痛みを和らげる方法をリラは知らない。

 かすかに甘い薔薇の香りが鼻孔をくすぐった。そのとき、部屋に控えめなノック音が響き、リラは心臓が口から飛び出そうになった。

「はい!」

 思わずその場で返事をすると、ドアがゆっくりと開き、ヴィルヘルムがおかしそうな顔をしてに入ってきた。

「そんなに驚かなくてもいいだろ」

 声だけで慌てぶりは伝わったらしい。リラは恥ずかしさや気まずさもあり、顔を隠すように頭を深々と下げた。

 ヴィルヘルムは祓魔のときに着ていた漆黒の服から着替え、白いシャツのようなものを羽織っていた。かくいうリラも寝間着は新しいものを用意してもらったのだが。

「今日はよく働いてくれた。礼を言う」

 いつものようにベッドのそばまで歩み寄ると、ヴィルヘルムは端に腰を落としてリラに顔を向けた。しかし、リラは顔を上げられないままだった。

「いいえ、私は今回、なにも役に立っておりません。なにも見ることもできませんでしたし」

「メラニーに口を割らせたのはお前だろ。メラニーから名前を聞き出せなければ、私でもどうすることもできなかった」

 萎んでいくリラの声をヴィルヘルムがすくい上げる。それは心も同時にだった。でも、今のリラは素直に嬉しがることができない。
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