祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 分不相応な発言をしたことを後悔しながら、なにも返すことができない。そんなリラにヴィルヘルムはベッドに手をついて、その身を寄せた。

「それなら、お前の言う国王の立場から命令してやろう。その謙る態度も敬語もやめろ。お前がお前のままで接してくれたらいい」

「ですがっ」

 顔を上げたリラが言葉を飲み込む。思ったよりも近くに、ヴィルヘルムの顔があり、その瞳は真っ直ぐにリラを見つめていたからだ。

「命令に背く気か?」

 低い声と共に、ヴィルヘルムはさらに距離を縮める。ベッドの軋む音がやけに大きく感じた。それはリラの心臓の音もだった。

 目を逸らすことができず、まるで金縛りにあったかのようだ。ゆっくりとヴィルヘルムの手がリラの頬に触れる。自分の体温よりもいくらか低いことに反射的にリラは身を竦めた。

「陛、下」

 拒否したいわけではない。けれども、ヴィルヘルムの言葉が頭の中で何度もリフレインされ、得体の知れない不安がまた胸に広がっていく。それが怖くてリラは恐る恐る呼びかけたが、ヴィルヘルムは一歩も退かなかった。

「ヴィルでいい」

 そのまま唇が重ねられる。驚きもあって離れようとしたリラだったが、それは許されなかった。いつの間にか体に回された腕が離してくれない。

 触れられていた手はいつの間にか熱くなっていて、繰り返される口づけに、リラはなにも考えられなくなっていく。

 口づけが終わりを迎え、青みを帯びた漆黒の双眸にリラを映したところで、ヴィルヘルムはその身をリラの横に倒した。これにはリラも目を丸くして、急いで隣に横になった王に目を向ける。
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