祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 前にもここでの祓魔は経験したことがある。そのときも同じように響いた女の泣き声や断末魔のおかげで、ヴィルヘルムは、とんでもない加虐主義者だという噂がまことしやかに囁かれたわけだが。

 しかし、今回はそんな噂で落ち着くとも思えない。薄々と人ではないなにかの仕業なのでは、と不安を声にしている者も出てきている。

「陛下があまりにも後宮に足を運ばないから、奴らが呼んでくれているのかもしれませんよ」

 不謹慎ともとれる発言をしたのはエルマーだ。けれども、その顔は戸惑いが隠しきれていない。誰もがこの事態をどう受け止めていいのか分からない。

「陛下、彼女を連れてきましょう」

 倒れた女性に簡単な応急処置を施し、ベッドに運び終えたクルトが提案する。彼女というのは、もちろんリラのことだ。

「場所が場所だ。相手を必要以上に刺激させることもない」

「それを差し置いてもです。もうそんなことは言っていられない。後宮でも、このことは不安を呼んでいる」

 クルトの厳しい声が飛び、ヴィルヘルムは眉根を寄せた。どうしても後宮というこの場にリラを連れて来るのは憚れた。

 祓魔の相手を考えれば、同性のリラを連れていくのは、余計な刺激になりかねない。そう思ってヴィルヘルムはここ最近の祓魔にリラを同行させていない。けれども、それも限界のようだ。

「彼女をなんのためにここに置いているのか、あなたが一番、よく分かっているはずでしょう」

 釘を刺すような言い方にヴィルヘルムはわざとらしく肩を落とす。

「分かっているさ。ただ……風邪をひかせては困る」

 その発言はどこまで本気なのかクルトにもエルマーにも推し量ることはできなかった。ただ、先ほどから吐く息は白い。雪は降らないものの、王都には冬がやって来ていた。
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