祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 薔薇園らしきところは、今は時期的に花は咲いていないが、上から見ても特殊な形をしていた。城の正面入口から東に伸びた細い小道には、いくつかのアーチのようなものが薔薇園へと案内するようにかけられている。

 それをくぐり抜けると、小さな白い屋根と薔薇の木々が太陽をわずかに遮るようなスペースになっており、さらにそこをぐるっと覆うように薔薇の木々たちが取り囲んでいる。

 おかげで人がいたとしても、上からはよく見えない。まさに秘密の花園という言葉がぴったりだ。あそこでフェリックス王はなにを考えていたのか。

「薔薇が好きだなんて素敵だね」

「そうですね。おかげで薔薇が恋人だなんて揶揄されていましたが。その証拠に、ある品種の薔薇がとくにお気に入りで、彼が亡くなるときも棺にその薔薇を一緒に入れてほしい、と生前頼んでいたほどらしいです。どんな薔薇だったかは失念しましたが」

「そうなんだ」

 思いを馳せていたところで、フィーネが続きの講義を促したので、リラは背筋を正した。

「フィーネ、わざわざごめんね」

「いーえ、かまいませんよ」

 フィーネはにっこりと笑った。編みこまれた赤毛が嬉しそうに揺れる。それからフィーネは少しだけ申し訳なさそうな顔になった。
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