祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 いきなり後ろから口を塞がれ、体を拘束されたときには心臓が止まりそうになった。自分を押さえている男を含め、柄の悪そうな男たちが三人。リラが摘んでいた薬草の籠を拾って大喜びしている。

 それは、この辺でしか採れない貴重なものだった。消毒と鎮痛作用があり、高値で取引される。リラは歯の根が合わず、ただ目に涙を浮かべながら震えた。目の前の薬草を渡して済むなら、それでかまわない。

 しかし、薬草に目を向けていた男の一人と目が合ってしまった。

『おい、この娘、瞳が紫だぞ。しかも見ろよ、この見事な銀髪』

 頭の布は払いのけられ、他の男たちもリラに視線を注ぐ。

『こいつは珍しい』

『下手に手を出すな、魔女かもしれない』

 その言葉に男たちが、少し怯む。悪魔、魔女への恐怖は、神の存在を信じるのと同時に、人々の心に当たり前のようにあった。

『どうする? こいつは奴隷以上の価値がありそうだ。いい値がつくぞ』

『でも、もしも魔女だとしたら』

『さっさと引き払っちまおう。リスティッヒの商人にいい値をつけてもらうんだ』

 塞がれた口から息も上手くできず押しつけてくる男の手が気持ち悪い。瞬きひとつせずにリラは、自分の置かれた状況を整理しようと必死だった。

 絶望という名の闇が目の前を覆っていく。自分は殺されてしまうのか。少なくとも、村に戻ることだけはないのだと、それだけは分かった。
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