祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「こんなことを言ったら、気を悪くされるかもしれませんが、正直、リラ様が読み書きできることに驚きました。王都はともかく、この国の識字率はそれほどまでに高くはありませんから。誰に習われたんです? それとも、そういう施設が?」

「いえ、祖母に個人的に」

「お祖母さまは学の高い方だったんですね」

 指摘されて初めてリラは気づいた。自分は昔から当たり前のように読み書きができたが、それは祖母から教えられたものだった。

 祖母は自分にだけでなく、村の子どもたちや、求められれば大人にも文字を教えたりしていた。では、祖母は誰に習ったのか。

 村に学校のようなものはない。祖母もまた自身両親に教わったのか。では、その両親は? 悶々とする思考を払う。それはきっと重要なことではない。それなのにリラは妙な引っ掛かりを覚えていた。

「それにしても、ヴィルヘルム王もフェリックス王のようにならなければよいのですが」

 ため息混じりに呟かれたフィーネの言葉にリラの思考が吹き飛ぶ。フィーネにとっては、なにげなく口に出した言葉のようだが。

「陛下は素晴らしい王だと思いますが、早くその血を引いた世継ぎの誕生を民も家臣も心待ちにしているのに、なかなかその気配がないのが唯一の難点と申しますか」

「なぜ、そこまでして世継ぎを急ぐの?」

 リラには王家の事情などは詳しくは分からない。それは当たり前のことなのかもしれない。しかしフィーネはその問いかけに顔を曇らせた。
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