祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「リラさまは、前国王のことをご存知ですか?」

 真剣みを帯びたフィーネの問いかけに、リラは静かに首を横に振る。名前だけは知っている。ヴィルヘルムの父親に当たるケヴィン王だ。

 若くして亡くなり、そのあとを継いでヴィルヘルム王が即位したのだと聞いている。フィーネは伏し目がちに硬い声で続けた。

「王家は、代々短命なのです。とくに国王となる方はなぜか……」

 耳を疑いたくなるような発言。リラは自分のことでもないのに、心臓が直接握られたように縮みあがった。そして痛みだす。

 それは、誰の? 国王ということは、つまり……。声が、言葉が出てこない。ただ、冗談ですまされるような話ではないことだけは分かる。

「どう、して」

 精一杯の返答がそれだけだった。鼓動がどんどん強く速くなる。口の中がからからに乾いていく。フィーネは静かにかぶりを振った。

「正確なことは、分かりません。城の者が好き勝手言っているだけかもしれません。ですが、偶然にしては、ずっと続いていることだそうで。……呪い、だと聞いています」

 呪い、という言葉がリラの脳裏にはっきりと刻み込まれた。信じられない気持ちと、信じたくない気持ち。でも、もしもそれが事実なのだとしたら、と考えると、胸が切り裂かれそうに痛い。なんだか泣き出しそうだった。

「すみません、余計な話をしました。どうかお忘れください」

 リラの悲壮感漂う表情にフィーネは慌て始める。リラの頭は働かない。それでもフィーネに心配をかけるわけにもいかない。

 必死で笑みを浮かべて、話題を変えた。けれどもリラの頭から呪いという言葉が離れることはなかった。
< 151 / 239 >

この作品をシェア

pagetop