祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 夜になり、太陽が隠れると寒さは一気に増していく。部屋に備えつけられている暖炉に焚かれた炎をリラはじっと見つめた。暖かさにほっとする間もなく、言い知れぬ不安が自分の胸を覆っていく。

 呪いというのは本当なんだろうか。それとも、そういう血筋なのか。短命というのは何歳ぐらいまでを指すのか。ヴィルヘルムは、このことをどう思っているのか。

 次々に浮かんでくる思考の波に攫われそうになる。それを避けるためにリラは窓の方に近づいた。触れると外の冷たさが瞬間的に伝わってくる。

 窓の外からはなにも窺えることができない。ただ、闇の世界が広がっているだけだ。

 ここからは見ることができない王の花嫁を選ぶために宛がわれた塔。ここ最近、ヴィルヘルムはそこに足繁く通っていると聞いた。

 それは喜ばしいことだ。忙しい王のために、少しでも心通わせられるようにと設けられたあの塔には、どんな女性たちがいるのか。

 嫉妬なんてする資格さえ自分にはない。戯れでも、慰みでもかまわないと決めたのは自分だ。それなのにリラはヴィルヘルムに会いたくてたまらなかった。

 そのときドアがノックされる音が部屋に響く。それは自分の願望が聞かせた音なのかとリラは疑った。しかし視線を向けたドアがゆっくりと開かれ、そこには願望が現実となって姿を現した。

「ヴィル」

「そんなところに立っていると、風邪をひくぞ」

 リラの姿を確認した途端、不機嫌そうにヴィルヘルムが呟く。その顔には疲労が滲んでいた。リラにかまわずベッドの方に足を運び、断りもなく腰を落とす。リラはなんだか嬉しくなって急いでそちらに近づいた。
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