祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「ヴィルは祓魔師ではなく、本当は魔術師だったの?」

「なにを言っている」

 意味が分からずに、眉間に皺を寄せるヴィルヘルムにリラはますます笑顔になった。こんなにも、自分の会いに来てほしいタイミングを狙って来てくれるのだから、本当にすごいと思う。

 ただ来たのはいいものの、ヴィルヘルムは黙ったままだ。さすがに失礼な態度だったかと、リラが謝罪を口にしようとしたときだった。

「リラ」

 まっすぐに見つめられ、名前を呼ばれたことでリラは動けなくなってしまう。隣に座るように促され、おずおずと反論することなく指示に従うことにした。

「今度、祓魔に付き合ってほしい」

「はい、仰せのままに」

 今更、改めて言う話だろうか、とリラは首を傾げた。そんなリラの顔を複雑そうな表情でヴィルヘルムは見つめる。そして次にその口から紡がれた言葉はというと

「寒い」

 の一言だった。虚を衝かれたようにリラは目をぱちくりとさせる。ぱちぱちと暖炉が音を立てているのが耳に入り、急いで立ち上がった。

「すみません、すぐに火を強くします」

 けれども、慌ただしく暖炉に向かおうとするリラを阻むかのように、その手が取られる。

「え」

 次の瞬間、さらに強い力で腕を引かれリラはベッドによろける形で、倒れこんだ。気づけば、同じように体をベッドに横たわらせたヴィルヘルムの腕の中にいる。

「こっちの方が温かい」

 きつく抱きしめられ、伝わってくる体温に、思わず身震いした。柔らかいベッドと、回された力強い腕の感触のおかげで、状況を意識させられ、なんだか恥ずかしくなってくる。
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