祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「あの、風邪を召されては大変ですし」

「それはこっちの台詞だ。あんな窓の近くに立っていたら冷えるだろ」

 冷たくなっていたリラの頬にヴィルヘルムが自分の温もりを分けてやるように触れる。それだけのことにリラの心臓は破裂しそうだった。至近距離で双黒に捕らえられる。

「私は疲れているんだ。おとなしく言うことをきけ」

「……はい」

 暗に手を煩わせるな、と言われた気がしてリラは素直に身を委ねた。ヴィルヘルムはリラを抱きかかえたまま、その銀糸に指を通して弄り始める。

 その様子をリラはじっと見つめていた。そして触れられたところから伝わってくる体温、脈拍にひどく安心する。

「泣きそうな顔をしてどうした?」

 不意打ちとも言えるヴィルヘルムの指摘にリラはとっさになにも答えることができなかった。目を見開いて固まったままでいるリラに対し、ヴィルヘルムはその額に唇を寄せる。

「心配なことがあるなら、言えばいい」

「いえ、決してそのようなことは」

 慌てて否定しようとするリラの唇にヴィルヘルムは自分のを重ねた。

「やっぱり、冷えているな」

 確かめるように言われてリラは今度こそ泣き出しそうになった。そこで昼間のフィーネの言葉が走馬灯のように駆け巡る。

『陛下は素晴らしい王だと思いますが、早くその血を引いた王子の誕生を民も家臣も心待ちにしているのに、なかなかその気配がないのが唯一の難点と申しますか』

『王家は、代々短命なのです。とくに国王となる方はなぜか……』

『呪い、だと聞いています』
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