祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「ヴィルはどうして……どうして結婚しないの? 世継ぎを作らないのはなぜ?」

 衝いて出た言葉をすぐに後悔するが、もう遅い。どうしてこんなことを訊いてしまったのか。もっと別のことを、他のことを訊きたかったのに。

 部屋に温もりを与えていた炎の勢いが弱まるのを感じた。冷たさを伴った静寂が部屋に舞い降りる。

「誰かに、なにかを言われたのか?」

 耳元に響いてきた言葉にリラはなにも答えられなかった。目を動かすことさえできずにいると、衝撃と共に視界が切り替わる。

 ヴィルヘルムがリラを抱きしめたままの態勢で、その体をベッドに押しつけた。おかげで、リラは自分に覆い被さるヴィルヘルムを見上げることになる。凍てつくような冷たい瞳がリラを映していた。

「そんなに理由が知りたいなら教えてやる。その気になれないだけだ。それとも、お前がその気にさせてくれるのか?」

 自嘲するような薄笑い。リラは瞬きひとつせずに王を見つめ返し、浅く喉元を上下させた。口が震えて、上手く言葉が紡げない。

 どんな理由でも、そうなれば自分はヴィルヘルムの特別になれるんだろうか。自分は――

「……私みたいな飼い猫と交わっても、生まれるのは化け物ですよ。ヴィルヘルム陛下」

 顔を強張らせながらも自嘲的な笑みを浮かべてリラは精一杯の毒を吐いた。そして、戒めのために吐いた毒はそのまま自分にかかる。

 ヴィルヘルムの瞳が一瞬だけ揺れたが、それを振り払うように、強引にリラに口づける。抵抗しようにも顎に手をかけられ、顔を背けることも許されない。

 乱暴な扱いにリラは苦しくなった。傷つくなんておこがましい。どんな扱いを受けても自分は受け入れるだけだ。
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