祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 舌を絡めとられ、お互いの息遣いがやけに耳につく。幾度となく繰り返される口づけはリラを懐柔させていった。

 本気で拒まない意味をヴィルヘルムは分かっているのだろうか。そんな思いに駆られると、やはり胸が締めつけられるように痛む。

 やっと解放されたときには、息が上がって、涙の膜で視界が覆われていた。ヴィルヘルムは相変わらず涼しげな表情だ。リラの唇をゆっくりと親指でなぞってやる。

「本当に化け物が生まれるのか、試してみればいい。お前が化け物なら、私も十分に化け物だからな」

 ヴィルヘルムは紺碧のジュストコールを手際よく脱ぎ捨てる。リラはただ、仰向けになったまま呆然とその様子を見つめることしかできなかった。

 そして白いシャツ一枚になり、手荒く緩めると、ヴィルヘルムの肌が晒される。それを目にしたとき、紫の瞳はこれでもかというくらい見開かれた。

「それ、は」

「言っただろ、私も化け物だって」

 皮肉めいた笑みと共にリラの目に映ったのはシャツの合間から覗くヴィルヘルムの肌に刻み込まれたものだった。

 左鎖骨辺りから心臓に向かって白い肌にくっきりと、黒いものが浮かび上がっている。その形に見覚えがある。薔薇だ。真っ黒な薔薇が茨を伴って連なり、まるで心臓を襲わんとばかりに伸びている。

 ゆっくりとリラも体を起こすが、言葉が出ない。代わりにヴィルヘルムが続けた。

「代々、国王になるものに降りかかるズーデン家の呪いだと聞いている」

「呪、い」

 ヴィルヘルムの口から出た名前にリラは聞き覚えがあった。どこで? と一瞬だけ悩んだが、すぐに思い出す。あの一枚だけ欠けていた肖像画だ。
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