祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
『南領地を統括していたズーデン方伯は没落しました』 

「四大方伯の……」

「そうだ。薔薇はズーデン家の徽章にあしらわれていたんだ。あの子ども騙しの昔話をお前も聞いただろ」

 リラは静かに頷く。フィーネから聞いた、子どもから大人まで誰もが知っているシュヴァルツ王国に伝わる始祖の話だ。王の偉大さ、寛大さを称えたものだと聞いている。それが今、どういう関係があるのか。

「話の中に反逆を企てた仲間が出てくるだろう」

「まさか……」

 リラはようやくヴィルヘルムの言わんとすることが分かって、手で口元を覆った。

「何代も前、ヨハネス王の頃だと聞いている。当時は情勢が不安定で、とくに南の方は緊張状態が続いていたそうだ。
 そして交渉に赴くように指示した国王に従い、ズーデン方伯は夫妻で話し合いの場を持つため国境付近に足を運運んだ。しかしそこで起こった暴動に巻き込まれ死亡。
 唯一残った夫妻の一人娘が王家を逆恨みして、復讐を果たそうとしたらしい。今はどうか知らないが、あの伝承通り方伯たちも同じような力を持っていたそうだ」

 淡々と感情なく語るヴィルヘルムにリラはどう反応していいのか分からない。ただ、王の口から紡がれる話を耳にするだけでリラの心臓は早鐘を打ち、目に見えないなにかに押し潰されそうだった。

「狙いは王家の滅亡だったのか、正確なところは分からない。だが、ヨハネス王の息子であるフェリックス王が、その呪いを返して、なんとかその場は収まったそうだ」

「呪いを……返す?」

 状況についていけずにおうむ返しをするリラに王は軽く微笑んだ。
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