祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「世継ぎを急がれるのも、残された時間を考えれば、自分がするべきことも分かっている。頭では理解しているんだ。
でも、本当にそれでいいのか。自分と同じ思いをさせることを分かっていて、世継ぎを作って、呪われた運命を全部押しつけて消えていくなんて。
正しいか、正しくないかなんて問題じゃない。ただ、どうしてもできないんだ。……迷う時間もないはずなのに、ずっと答えが出せない」

 痛みを堪えるような悲痛な物言いだった。いつも不敵でどこか余裕のあるヴィルヘルムのこんな姿を見るのはリラは初めてだ。けれど、無理もない。

 ヴィルヘルムは自分の運命を受け入れていると言ったが、はっきりと目の前に迫る避けようもない死を、ただ無心に受け入れるなんて、よっぽどではないとできない。

 現にヴィルヘルムは同じ思いを自分の血を引く者にさせていいのかと迷っている。王家の血を引く遠縁の者ならいくらでもいると聞いている。

 けれど、やはり皆が望むのはヴィルヘルムの直接の血を継ぐ者なのだろう。今までの王たちの行く末を知る者たちなら、時間がないと焦るのも当然なのかもしれない。

『それに、どうせ別れる存在だ』

 あのときの言葉は、どんな気持ちで発したものだったのか。

「ごめん、なさい」

 ずっと押し黙ったままでいたリラの口から、謝罪の言葉が漏れる。ヴィルヘルムは目を見開いて、リラに身を寄せた。
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