祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 男たちは疑心暗鬼で小物だった。リラを魔女だと疑い、恐怖を抱きながら接していた。悪魔が魔女と契約した際に捺す烙印。その烙印の捺された箇所は痛みを感じないとされている。

 だから何度も暴力を振るわれた。魔女ではないかと疑い、恐れ、本気ではないにしろ痛めつけられる日々。リラが痛がる表情を見せるたびに男共は安心したような表情を見せ、そして呪われるのではないかと怯えた。

 リスティッヒの商人はリラを見て、なにかを思いついたように、あっさりと引き取った。数枚の金貨を見て大喜びする男たち。解放される、という安堵感とこれから先のことがまったく予想できずに不安しかない。舌を噛み切って死ぬこともできない。

 商人たちはリラを物のように扱った。幾重にも縛られ、この瞳を恐れ目隠しをされた。そして、どこかに連れて行かれる馬車の中で、商人たちが話すのを聞いた。

 自分はこの国の王であるヴィルヘルム陛下に貢がれるのだと。なんでも王は後宮に足も運ばず、世継ぎを一切作る気配がないらしい。

 見目麗しい外見と、王として申し分のない政治的手腕、隙をまったく見せない裏の顔は非常に恐ろしく残虐非道で、それが原因で普通の女性は相手にできないのだと、真しやかな噂が流れているそうだ。

 実際に王が共に夜を過ごした女性の部屋からは、すすり泣く声や、必死に助けを求める声などが聞こえたらしい。

 そんな話を聞きながらリラはこれからの自分の身を案じて泣きそうになった。しかし涙も出ないほど、体も乾ききっている。もう何日も物を口にしていない。このまま死ねるなら、それでよかった。
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