祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「なぜ、お前が謝る?」

「ごめん、なさい」

 リラは俯いたまま、壊れた人形のように同じ言葉しか繰り返せない。この謝罪がなにに対してのものなのか、リラにも明確に理解できない。

 ヴィルヘルムの事情を知って、自分がなにもできないことに対してか。事情も知らずに、失礼な質問を投げかけたことか。分からない。けれど、謝らざるをえなかった。そうしないと心が壊れそうだった。

 ヴィルヘルムは再度リラを抱きしめて、そのままベッドに身を倒した。額同士を合わせて強引に視線を交わらせる。

「そんな顔をせずに笑っていろ」

 命令された言葉とは反対に、リラの視界は涙で歪んでいく。王はそっとリラの目元に唇を寄せた。リラは反射的に目を閉じる。そして、ゆっくりと離れて、互いに見つめ合ってから唇を重ねた。

 先ほどの口づけをやり直すかのように、優しく、甘く、慈しむかのような触れ方だった。それだけでは物足りなくなって、リラは思い切ってヴィルヘルムに腕を回して密着させる。

 応えるように、ヴィルヘルムもリラを強く抱きしめ返して、深く求めた。

「最後まで、そばにいてくれないか?」

 切ない吐息混じりに囁かれた言葉に、リラの心は大きく揺らいだ。整わない息は、この口づけのせいなのか、それとも――。

 泣きそうになるのを必死に我慢して、静かに目で応えると、リラから唇を重ねた。冷たくて暗い夜、穏やかなオレンジ色の光だけが二人を照らしていた。
< 160 / 239 >

この作品をシェア

pagetop