祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「どうか、どうかこの身を愛してください。私の望みはそれだけなんです」

 まただ。ヴィルヘルムは顔をしかめる。絡みつくような、まるでなにかの呪文のような、この声に頭が霞む。そうして意識をそちらに持っていかれていると、さらに腕の力が強められ、赤い誘うような唇が強引に重ねられた。

 反射的に顔を背けようとしたが、それも叶わない。唇から伝わってくるのは冷たくて背筋を這うような嫌悪感だけだった。そこで、ヴィルヘルムの意識が途切れる。

 力なくベッドに倒れこんだヴィルヘルムを見て、ドリスは妖しく笑った。そしてヴィルヘルムの髪に触れ、ゆっくりと指を通す。

 濡れたような艶のある黒髪は、触れると、とても柔らかい。目の前にずっと待ち焦がれていた男を前にしてドリスの心は高ぶった。

「やっと。やっと……これで私の望みは叶う」

 笑いながらヴィルヘルムに再度、触れようとした、そのときだった。いきなりヴィルヘルムが伸ばされた手を取って体を起こすと、勢いをつけてそのままドリスを後ろへ押し倒した。

 ベッドがしばらく軋む音を立てて振動する。それが収まっても、ヴィルヘルムは、ただじっと焦点が合わない瞳でドリスを見下ろしていた。

 そしてヴィルヘルムの下になったドリスは実に楽しそうだった。まるでこの状況を望んでいるかのように、そっとヴィルヘルムの頬に手を伸ばす。

 すると、応えるかのようにヴィルヘルムはドリスの首元に触れて、服に手をかける。
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