祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「どうぞ愛してくださいね、陛下」

 その言葉に従うかのようにヴィルヘルムの顔がゆっくりと近づいてきた。ドリスは胸を高鳴らせてそれを受け入れる。しかし次の瞬間、ドリスの思いもよらなかった行動をヴィルヘルムはとった。

 肌に触れようとしていた手は服にかけられ、そのまま強引に縦に動かされた。服は引き裂かれ、胸元がそのまま晒される。なんともあられもない姿に、さすがにドリスも狼狽えた。

 さらに首元を手で押さえ込まれ、動きが制される。息が苦しくなり、ドリスの瞳には涙が浮かんだが、ヴィルヘルムは容赦なく、晒された肌に目を走らせる。

「どうした? 人には強引に迫っておいて、乱暴にされるのは趣味じゃないのか?」

「陛、下」

 助けを乞うような物言いに、ヴィルヘルムはドリスを解放した。激しく咳込む音が部屋に響き、ヴィルヘルムはベッドから腰を上げる。

「どのような契約を交わしたのかは知らないが、爪が甘かったな」

 その言葉に、ドリスの顔が歪む。青い虹彩は、今や色が濁り始めていた。ぐるりと瞳を一周させ、だらしなく笑う。

「なぜ、分かった」

 その声は、ドリスのものでありながら、枯れて不協和音を伴うものだった。それに対しヴィルヘルムは怯むことなく続ける。

「噂だよ。ここ最近お前らが暴れて、ちょっとした騒ぎになっている。しかも起こるのは、この部屋の周辺ばかりだ。噂だけではなく、物音や叫び声のひとつぐらい聞いてもおかしくはないだろ。けれど、彼女はそのことについて、父親になにも言わなかった。さっき直接、訊いたときもだ。まさか自分が元凶だなんて言うわけもないからな」

「なるほど」

 あまり感心した様子もなく、ドリスに憑いているものは笑った。
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