祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「極めつけは、胸元に烙印があった。お前と契約したようだな」

 肌けたドリスの胸元には細くてどす黒い三日月の烙印があった。悪魔と契約した魔女に施されるものだ。ドリスは口角を上げたままおかしそうに続ける。

「そうだ。この娘はお前を欲しがっていた。正確に言えば、お前との子どもだ。そのためならこの体を捧げてもいいと言ってきたからな」
 
「なら、契約不履行だな。出ていけ」

「そうはいくか」

 言うと同時に、ドリスがヴィルヘルムに襲いかかる。人間離れした速さに、一瞬だけ虚を衝かれた。背中に打ちつけたような激しい痛みを感じる。

「あのまま意識を手放して、おとなしくこちらの意志に従っていれば、快楽を得られたというのに。だが、今からでも遅くない」

 ドリスの細い指が、跡が残るほどヴィルヘルムの首に食い込む。爪を立て、薄い皮膚には、うっすらと血が滲んでいた。ヴィルヘルムの顔が苦痛に歪み、その顔を見て、満足そうにドリスが微笑んだ。

「陛下!」

 突然ドアが乱暴に開かれ、冷気と共に人がなだれ込む。待機していたクルトとエルマーだ。

 そちらにドリスが気をとられたわずかの隙に、ヴィルヘルムは上になっているドリスを蹴り上げる。ドリスは宙を舞って距離をとった。

 クルトから受け取った小瓶を開けて、中の液体を素早く撒く。喉元を押さえて、調子を整えてから、お決まりのラタイン語を唱えると、不敵に笑っていたドリスの顔が怯んだ。
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