祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 そのとき、ドリスの瞳がヴィルヘルムから逸らされ、違う方向に向けられた。ある一点を見つめ、目を見開いている。思わぬ事態に、ヴィルヘルムも、わずかにそちらに視線を移した。そこには

「リラ」

 扉の方から怯えつつも中を心配そうに窺っているリラの姿があった。おそらくクルトが連れてきたのだろう。場所を考えてか銀の髪は布で覆われているが、紫の瞳がこちらを捉えている。反応したのはドリスの方が早かった。

「あなたが……」

 そう呟いたのはドリスなのか、ドリスに憑いているものなのか。目をぎょろりとつり上げ、美人の面影がなく、凄みだけが増し、獣のようにリラに飛びかかった。

 クルトとエルマーが庇うようにするも、それを跳ねのけてドリスはリラの首に手をかける。

「邪魔なのよ。消えて! 消えてよ! あなたがいるから、私は……」

 叫んだ声はドリスのものだった。リラの細い首にドリスの指が食い込む。リラはこの状況についていけなかった。

 クルトとエルマーに指示され、いつものように祓魔の手伝いをするため、と連れて来られたのは、まさかの後宮だった。

 先に足を運んでいるというヴィルヘルムの身を案じながらも、初めて訪れる後宮に鼓動が速くなっていく。

 そして物音を聞きつけ、部屋に飛び込んだクルトとエルマーに続いて見た光景は、悪魔に憑かれている女性がヴィルヘルムを襲っているというものだった。
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