祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「このままだと死ぬぞ?」

 王の言葉にリラは我に返った。自分がここに連れてこられた理由は、王がここにいる理由は、ひとつしかない。自分は一生、慰みものとして、この紫の目を疎ましがられながら生きていくのか。

 ベッドが軋む音がして、王が膝をつき、自分に近づいてきたのが分かる。もう抵抗する気力も体力もない。

 最後の力を振り絞って、潰そうとしたこの紫の瞳。これがすべての元凶ならば、今ここで王の前で潰してしまおうか。そんなあてつけさえも馬鹿らしい。どこか投げやりな気持ちになりながらリラは目を閉じる。

 そして次の瞬間、腕を掴まれ、そのまま後ろに倒された。まるで物でも扱うような乱暴さだった。ベッドが柔らかかったので、痛みはなかったが、リラは開けないでいようと思っていた目を思わず開けてしまう。

 この暗さではきっと、自分の瞳の色は分からない。そして自分を見下ろしている王の表情もまったく読めない。

 そこからの王の行動は素早かった。いきなりリラの頬に手を添えたかと思えば、親指を唇に滑らせ、そのまま直接、歯列をなぞる。驚きで反射的に口を開くと、さらに人差し指と中指が口内に捻じ込まれた。

 噛みつけばいいのに、つい躊躇ってしまう。しかし、すぐに指はどけられ、苦しくなった肺に空気を取り込もうとすると、いきなり唇が重ねられた。

 そして一方的に王の口から水が伝う。完全な不意打ちだったので、リラはすぐに顔を背け、咳き込んだ。飲み込めなかった液体がだらしなく口元から零れる。王はリラから身を離し、体を起こした。
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