祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

血を引く者

 意識ははっきりしている、それなのに自分の瞳にはなにも映っていない。暗闇だった。それでも周囲に誰かがいる気配は感じる。

 ざわざわと自分に向けられている視線の数々は、およそ好意的なものはどれもない。憎悪、恐怖、不安。黒い感情に蝕まれそうだった。

 そして誰かがヒステリックに叫べば、それが伝染するように伝わっていき、殺気立った雰囲気に囲まれる。怖い。

 リラは歯の根が合わずに、ガタガタと震えた。そのとき、波が引くように辺りが急に静かになる。そして

『王家に仇を為す魔女め! 私が本気でお前を愛するとでも?』

 自分に向けられた厳しい非難の声にリラは目を見張った。その声はヴィルヘルムのものだった。



 荒々しく呼吸をしながら、視界にいつもの天蓋が映る。どうやら自分は夢を見ていたらしい。すぐに起き上がろうとしたが、それは叶わなかった。

 なぜなら、リラの腕は縛られてベッドに括りつけられている。まるで初めてここに連れて来られたときのように。

「え?」

 リラの頭は軽くパニックを起こしそうだった。自分はたしか、祓魔の手伝いをするために後宮に足を運んだ。そして、悪魔の憑いている女性に襲われそうになって……。

 必死で記憶を辿るも、そこまでしか分からない。一体、なにがあったのか、どうして自分は縛られているのか。

「フィーネ、いる?」

 いつもそばにいてくれる彼女の名を呼んでみたが、反応はない。顔を必死に動かして周囲を見渡す。場所は、間違いなく城の中で自分に宛がわれている部屋だった。
< 171 / 239 >

この作品をシェア

pagetop