祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 誰か、誰かこの状況を説明して。

 泣きそうになっていると、部屋のドアが開く音が耳に届く。急いで顔をそちらに向けた。

「ヴィル……」

 複雑そうな顔をしたヴィルヘルムが、エルマーを連れてこちらに近づいてくる。リラの瞳から涙が零れそうになった。

「調子はどうだ?」

「だ、大丈夫。あの、これは一体?」

 動揺を隠しきれていないリラの問いに、答えたのはエルマーだった。

「すみません、あなたに悪魔が憑いている可能性がありまして」

「え!?」

「眠っている間に、陛下が祓魔を施してくれましたが、なにも反応はありませんでした。ですが、念のためということで」

 その発言にリラはヴィルヘルムを視線をやる。ヴィルヘルムはそっとリラの頭を撫でた。

「驚かせて悪いな。もう一度、お前が起きているときに試させてくれないか? それで、なにもないなら……」

「陛下!」

 息急き切った声が響く。その声はリラの知らないものだった。

「ノルデン方伯。誰の許可を得て、こちらへ?」

 あからさまに不快な顔をしたヴィルヘルムに代わってエルマーが問う。二人の合間から覗く突然の来訪者にリラも戸惑った。

「うちの、うちの娘が後宮から降りるとは、どういうことですか!?」

「使いに聞いた通りだ。心神喪失状態で、しばらく自宅で安静にした方がいい」

「そんなわけありません。これは、なにかの間違いです!」

 叫ぶような金切り声は、リラの不安を煽る。先ほど夢で見た、あの空気と似ていた。無意識に身を縮ませる。
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