祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 言われている意味は理解できない。ただ、目の前の男が何者かということは、リラには分かった。リラの中のなにかが必死に求めている。勝手に涙が溢れそうになる。

「っ、ルシフェル……さま」

 それはリラの意志ではない誰かのものだった。おかげで、これでやっと確信できた。やはり自分の中になにかがいるのだと、悪魔が憑いているのだと。

 そして、目の前にいるのは地獄帝国の皇帝を務め、すべての悪魔の長であるルシフェルだ。目に見えない圧にリラは顔を上げることができない。

 それでも、どうしても訊いておきたいことがある。答えてくれるなら、相手がだれであってもかまわない。

「あなたなら、知ってるの? 私は、私の祖先は、どんな内容で悪魔と契約したの? どうして私に憑いたままなの? どうすれば……呪いを解けるの?」

 訊きたいことが山ほどあるのに、声を出すのも苦しくなる。声と共に漏れる息は白い。切れ切れに、尋ねた問いに対し、ルシフェルは声をあげて笑った。その高らかな笑い声が反響してリラの頭はおかしくなりそうだった。

「なにが、おかしいの?」

 ルシフェルの笑いは止まりそうにない。ようやく笑いを収めたところで、ルシフェルはひざを折り、俯いたままのリラの顔を強引に上げた。血のような瞳に見つめられ、リラの心が震える。

「これは滑稽だな。お前はなにも知らないのか。こんなふうにこじれてしまったのは、すべてお前の、いやお前の祖先のせいだろ」

「……どういうこと?」

 ルシフェルはにんまりと口角を上げ、歯を覗かせて笑った。

「いいだろう、久々の再会を祝って、特別に教えてやる」
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