祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「おい、たしかに俺は本気になるな、と忠告はした。だからって、どうして突然、処分をどうって話になるんだよ!」

「ブルーノ!」

 諌めるような強い声が響く。腹の肉が揺れ、唐紅の外套がふくよかな体形を覆っていた。ブルーノの父親であり、西の領地を管轄するヴェステン方伯だ。従者を伴い、ヴィルヘルムに近づくと、ヴェステン方伯はゆっくりと頭を下げた。

「お久しぶりです、陛下。西隣国との協定の見直しについて無事に済ませてまいりましたことを報告いたします。そして、愚息がとんだ無礼を働きましたこと、まことに申し訳ありません」

 そうして顔を上げると、ヴェステン方伯は自分の息子に目もくれず、まっすぐにヴィルヘルムを見つめた。

「ブルーノから話を聞いたときに、やはり直接、陛下に申し上げるべきでした。銀色の髪を持つ者に近づいてはならぬと。ノルデン家に伝わるものと同じように、我がヴェステン家にも同じような話があった。“銀の髪を持つものを決して王に、王家に近づけてはならぬ。それは王家の破滅を呼び、災いをなす”」

 ヴィルヘルムは顔を歪める。もはや、ここまでくると偶然などという言葉では片付けられない。方伯それぞれに伝わる伝承は、まるでリラのことを指すためだけのように思えた。

「陛、下」

 そこで、弱々しく掠れた声で呼びかけられる。その場にいた全員の注目が集まった。
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