祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「オステン方伯」

 ヴィルヘルムは目を見開く。濃緑の外套に身を包み、腰の曲がった老人が、従者と息子に支えられながらこちらに一歩ずつ歩み寄っていた。

 高齢で体調がずっと思わしくないと聞いていたので、滅多に外に出ることもなく、会議も息子のザックが代わりに出席していた。

 ヴィルヘルムも、直接会うのは自分が即位したとき以来だ。あまりにも意外な人物の登場で部屋は静まり返る。

「すみません、陛下。どうしても自分が行くと言ってきかないもので」

 ザックが父親を支えながら、頭を下げた。急いでエルマーが椅子を運んで来て座るように勧める。

 オステン方伯は一言ヴィルヘルムに断りを入れてから慎重に腰掛けた。窪んだ眼窩はかすかに濁っており、長く白いあご鬚は、荒く息をするたびに上下する。

「ズーデン家の」

 唐突に話しはじめ咳込む。ザックがそばに寄ったが、手を上げてそれを制した。

「ズーデン家の血を引く者が現れたとお聞きしました……私も、オステン方伯として、陛下にお伝えしなくてはならないことがある」

 そこまで告げて、深く息を吐くとオステン方伯は顔を上げ、ゆっくりと他の方伯たちの顔を確認するように見た。

「この話は、できれば陛下とおふたりで話したい。それも含めて、オステン家に伝わることだ」

 ノルデン方伯は眉をつり上げ、ヴェステン方伯は複雑そうな顔をした。それでも、方伯たちの中でも年齢も高く、東だけではなく南の領地も管轄しているオステン方伯の申し出に、反論できる者などここにはいない。

 ヴィルヘルムはクルトに目線を送ってから口を開いた。
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