祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「私、十八なんです。ほら、私の方が年下でしょ?」

 だから敬語は必要ありません、と続けるローザにフェリックスは毒気が抜かれる思いだった。さらに、隣に座ってもいいかと尋ねられ、覚束ない足取りでこちらに寄ってくるので、フェリックスはますます困惑する。

 また転ばれても厄介なので手を取ってやると、ローザも遠慮なくその手を掴んだ。ドレスが汚れることなんてなにも気にせず、フェリックスが寝転んでいた場所に腰を下ろすと、ローザは空を見上げて深呼吸をした。

「いい香り。城での用事を済ませて帰ろうとしたら、薔薇の香りがしたので、誘われるようにしてこちらへ来てみたの」

 にこにこと笑いながら話すローザに、先ほど自分がした問いかけに答えてくれているのだと、ややあって気づいた。

「そんなに香り……香るか?」

 勧められた通り、柄でもない敬語はやめることにする。あまり大勢の人間に認知されていない場所だと思っていたのだが。するとローザは、目が悪い分、鼻や耳など他の器官は人一倍敏感なのだと話した。

「あなたが、ここの薔薇を手入れしているの?」

「……ああ」

「すごいわ。何色の薔薇が咲いてるの? よかったら教えて!」

 目をらんらんとさせて訊いてくるローザにフェリックスは渋々と説明してやる。ここには色はもちろん、小ぶりなものから大輪を咲かすものまで様々な種類の薔薇が咲いていた。

 アーチには黄色い薔薇が顔を覗かせ、辺りは赤色の薔薇を中心にグラデーションをなして囲まれている。
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