祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「素敵ね。見えないのが本当に残念」

 そう言いながらもローザの顔に悲愴さは微塵も感じられない。だからか、フェリックスは思いきって気になっていたことを尋ねた。

「城にはなんの用だ? お前は王家を恨んでいるんじゃないのか?」

 躊躇いながら訊いたフェリックスの顔が歪む。まだ若いローザが当主を務めているのには理由がある。

 ローザの父親である前ズーデン方伯は情勢が不安定だった南隣国カテルンとの国境についての話し合いに赴いた際、現地の暴動に巻き込まれ妻共々死亡したのだ。

 これを機に国王の命令で宣戦布告。結果的に多数の血を流したものの、国境にまたがっていた未開発のゲビルゲ山脈をシュヴァルツ王国のものにすることができた。

 このことで一人娘のローザは両親を失い、見えづらかった目がさらに悪化したしたと聞いている。そのことにフェリックスは後ろめたさを感じずにはいられなかった。

 緊張状態が続いていたカテルンにわざわざズーデン方伯夫妻を派遣させたのは国王だ。どうして、そんなことをさせたのか、本当に必要なことだったのか。こうなることを全部見越していたんじゃないのか。フェリックスは思いきって父親に問うたことがある。

『だったらどうなんだ?』

 冷たく言い返され、自責の念など微塵も抱いていない王が、父親が怖かった。これが民が崇め奉る国王なのか。それなら自分は国王になんてなりたくもない。なることなんてできない。
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