祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「私、薔薇はとくに好きなの。ズーデン家の紀章にもあしらわれているから。それに、ここに来ると、カインにも会えるから」

 恥ずかしげもなく告げるローザにフェリックスの方が反応に困った。それは自分もだと返せるほど、素直になれない。誤魔化すかのようにおもむろに立ち上がると、その場を離れた。

 それを気配で感じたローザの顔に自然と不安の色が広がる。しかし、しばらくして強い薔薇の香りがローザの鼻孔をくすぐった。すぐ顔の前に薔薇があるのだと理解するのと同時にフェリックスの声が届く。

「お前の薔薇だ」

 そっと手を出すと、一輪の薔薇がローザの手に収められた。刺に気をつけろよ、との言葉を受けて、怖々と花弁に触れる。柔らかく水分を含んだ手触りを指先で感じた。

「私の、薔薇?」

「その薔薇の色はピンクだ。Rosaの名にぴったりだろ」

「ピンクの薔薇なんてあるの!? すごい、見たことない!」

 興奮気味に話すローザの横に再びフェリックスは座る。薔薇といえば赤や白が主だった。しかしこの園庭には、方々(ほうぼう)の国から揃えた様々な薔薇が植えられている。その中でもとくに、色が濃いが上品さもあるものを選んでやった。

「ありがとう」

「礼を言われるほどのことじゃない」

 にこにこと幸せそうに薔薇を見つめるローザに対し、フェリックスはなんだか頭がふらついて顔をしかめた。相変わらず肩も重く、やはり今日はどこか調子が悪い。

 それを悟られるわけにもいかず、唇を噛み締めてなにかに耐えていると、ローザがじっとこちらを見てきた。そのことにフェリックスはたじろぐ。
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