祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 はぁ、と大袈裟にため息をつくフェリックスにローザが他言無用を乞うてきたので素直に応じる。

「それにしても……なにか悪いことが起こる気がする。カイン、どうか気をつけて」

「気をつけるのはお前だろ」

 頭を垂れながら、苦々しく呟く。ローザは目をぱちくりとさせて、しばらくなにかを迷う素振りを見せた。ややあって形のいい唇を動かす。

「ねぇ、カイン。もうすぐ肖像画ができあがるみたいなの。だから、こんなふうに毎日のようにここに来るのは難しいかもしれない」

「……そうか」

「もし、もしも私が後宮に入ったら、またこうして会えるかしら?」

「無理だろ」

 短く即答され、ローザは叱られた子どもみたいにしゅんとした。その表情があまりにも素朴で、つい笑みが零れてしまう。

「ひどい! どうして笑うの!?」

「いや。そんなに俺に会えなくなるのは寂しいか?」

 からかい混じりで訊くと、ローザはぐっと、握りこぶしを作り俯いた。長い髪がはらりと落ちる。

「……寂しいわ」

 そして、意を決して放たれた力強い一言に、フェリックスは目を白黒させた。

「私、カインにフェリックス殿下の話をしておいて、きっと好きになると思う、なんて言っておいて。その気持ちも嘘じゃないの。けど、カインと会えなくなるのも寂しいって思ってて。……ごめんなさい、都合のいいことばかり言って」
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