祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 照れながらも、それでも自分の本音を伝えようと精一杯なローザを、フェリックスは正面から抱きしめた。

「っ、カイン!?」

「そういえば、言ってなかったな」

「え?」

「俺の本当に名前。フェリックス・カインベルト・シュヴァルツ。現国王の第一王子ですよ、ローザ嬢」

 畏まって名乗るフェリックスに対し、ローザは言葉を失って固まっている。ヘーゼル色の瞳が零れそうに見開かれていた。

「嘘……」

 気を取り戻した瞬間、ローザは急いでフェリックスから離れると、立ち上がって、よろよろと姿勢を立て直した。

「あのっ、殿下、どうか数々のご無礼をお許しください。私は……あ」

 動揺が声にも表れ、足元も覚束ない。とっさのことで転びそうになったローザをフェリックスが支える。そのままふたりして倒れ込んだ。

 フェリックスに抱きしめられたままだったので、痛みは感じなかったが、ローザの頭はパニックだった。なにが本当でなにが嘘なのか分からない。

「本当に、カインが……フェリックス殿下なの、ですか?」

 強く打ちつける心臓が壊れそうに痛かった。ローザの声は震えている。それを宥めるかのようにフェリックスは頭を優しく撫でてやった。

「嘘をついて、悪かった。騙そうとしたわけじゃないんだ」

「私は、なんてことを」

 ローザの顔はすっかり青ざめている。冷たくなっている頬にフェリックスは自分の顔を寄せた。かすかにローザがみじろぎする。
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