祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 無駄に愛想だけよく、周辺諸国との関係でいいように使われるよりはよっぽどましである。齢二十にして国王となったヴィルヘルムが即位して早三年。王の手腕は、民の暮らしが平穏に過ぎ去ることによって十分に証明されていた。

 そんな素晴らしい王の姿を、民は即位式でたった一度しか見ることが叶っていない。鮮烈な印象をもたらす外見は、民衆の心に深く刻み込まれた。しかし、残念ながら記憶とは薄れるものだ。王は滅多に民衆の前に姿を現さない。

 そこに不満を抱く者や、どうしてなのかと疑問を抱く者は少なかった。なぜなら、代々の王たちもまた、その姿を人々の前に現すことは極稀だったからだ。

 大きな問題もないこの国で、民が次に王に望むことはただひとつ、それは――


「陛下、リスティッヒの商人が謁見を乞うています。なんでも陛下に珍しい品を献上したいんだとか」

 不穏な空気が漂う執務室に、もう一人の臣下がひょっこりと顔を出す。彼の名はエルマー。王とそう年も変わらずやや癖のある鳶色の髪をひとまとめにし、右目にはモノクルを装着している。臙脂色の上下服は彼のお気に入りだ。

「女でないならかまわない」

 いつもなら気乗りしないところではあるが、今はクルトからの小言を避けたい。さっさと謁見の間に移動する王の背中を見て、クルトは大きく息を吐いた。それに対し、エルマーは悪戯っ子のように笑う。

「もう女性はあり余ってますしね」
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