祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「憎んでいるのか? お前を攫った奴、ここに連れてきた奴、そして私も、か。それでも、ここに来るまでに手を出されなかっただけマシだと思え。もしくは、その瞳を与えた神か両親でも恨むんだな」

「そんなことしません!」

 今まで聞いたことがないような凛とした声に驚く。先ほどとは打って変わって、力強さの込められた眼差しが、王にぶつけられた。

「怖くて、今でも、頭がおかしくなりそう、です。でも、憎んでません。両親を恨むなんてもってのほかです。私は……私は、誰かのせいになんてしない」

 たどたどしくもリラは言い切る。耳鳴りでもしそうな静けさがふたりの間を包み、やがて王が目を逸らして小さく漏らした。

「どうやら確かめるまでもなかったか。お前に付け入る隙はないらしい」

 ひとり納得するヴィルヘルムを不信感溢れる目で見つめていると、再度その瞳がリラを捉えた。

「ようやく、少しは生きている表情(かお)を見せたな」

 笑った、とは言いがたい。それでも今までで一番柔らかい表情を見た気がした。しかしその表情はすぐに消え、ヴィルヘルムはベッドから下りる。

「きちんと薬師の言いつけを守り、回復するまで、おとなしくしておくんだな。今日みたいなことがあってもろくに抵抗できないぞ。まぁ、わざわざ私に飲ませて欲しいのなら、きいてやらないこともないが」

 意地悪く告げられたその言葉にリラは顔を赤らめた。言葉が出ずに顔を横にぶんぶんと振る。また様子を見に来る、と告げ今度こそヴィルヘルムは部屋を出て行った。
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