祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

伝承の裏側

 ローザとのことをヨハンに伝えると、いつも仏頂面な男の驚愕した表情が見られた。そのことにフェリックスは少しだけ満足する。

 結婚すると決めても、すぐにできるものでもない。ましてや国王の容態が悪化を辿る中、なかなか公表できることでもなかった。

 だが、フェリックスもローザも結婚を慌てているわけでもない。ふたりの気持ちが通じ合っているのなら、それでいいと思っていた。

 そして、夏の訪れを感じさせるある日、王は静かに息を引き取った。葬儀の手配、国民への公表の手筈、今後の王位について。

 悲しみに暮れる間もなくすることは山ほどあった。それなのに、フェリックスはどうも体調がすぐれなかった。たまに意識を失いそうになるほどだ。

 父の、国王のことはずっと覚悟していたことだが、やはり精神的なものなのか。原因は分からないが、休んでいる暇もない。

 もうすぐ四大方伯が弔問に訪れる。もちろんローザもだ。フェリックスは重い体を引きずり、なんとか支度にとりかかろうとした。



「殿下、おやめください!」

 次にフェリックスの耳に届いたのは、必死に自分を止めようと諌める声。いつの間にか意識が飛んでいた。しかし、そのことよりもフェリックスが驚いたのは、自分の目に映る光景だった。

 異母弟のフィリップが顔を歪めて苦しそうに抵抗している。その首には手がかけられていて、その手は他の誰のものでもないフェリックス自身のものだった。

 慌てて手を離そうにも、それが叶わない。自分の意志とは関係なく、絞める手に力が入る。
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